シャヌーン幻想

ー黄金のファラオー
作・演出 中村 暁 より







プロット

シャヌーン幻想





プ ロ ロ ーグ


客電が落ちると、人々の祈りの歌が聞こえてくる。静かに緞帳上がる。
夜明け前を思わせるような空間。祈りの歌とそれに合わせるような群舞シーン。
祈りが最高潮に達した時、舞台奥からシャヌーンとアリーシャ(姫)が登場して、
二人のデュエットダンスになる。
一旦決まった所で、再び人々が出て、祈りが最高に盛り上がってから、
潮が引く感じで、シャヌーン一人残して全員退場。


第一場 王宮の回廊


シャヌーンの銀橋ソロ。終わって本舞台に戻る。
セイレム(王子)が、待っている。
セイレムは、戦から戻ったばかりといった、出で立ちである。
シャヌーンは、友の無事を喜んで迎える。
今回は何処の国と戦ってきたのだと、聞き出そうとするが、皮肉とからかい気味に、
人質として暮らす、シャヌーンには、関係ないことだと、はぐらかす。
少し腹立たしく想いながらも、国のために戦えるセイレムが、羨ましいと語る、
シャヌーン。
そこに、国王が呼んでいると、アリーシャがやってくる。
(呼ばれたのは、シャヌーン)お付きの女官達に付き従われながら、退場。
アリーシャとセイレムの、シャヌーンの国についての会話になる。
セイレムは、シャヌーンの国の援軍として、戦に出ていたのだった。
しかし、彼の国に危険が迫っていることを、出来ることなら知らせたくなかった。
友人として、王子としてのセイレムの苦悩と、シャヌーンを慕うアリーシャの想い。
二人共、彼を危険と分かっている、国元に帰したく無かった。
静かに照明落ちる。



第二場 謁見の間


国王が、シャヌーンの来るのを待っている。
侍従が、シャヌーンが来たことを知らせる。
シャヌーン登場。
国王は、彼に国元の話をするべきかどうかで、迷っていた。
そのため、彼がこの国へ来てからの生活や、今の、このような状態に不満はないかと、当たり障りのない言葉を投げかける。
呼ばれた理由が、重要とも思えないので、シャヌーンとしては、少し苛立ちを見せる。
そこへ、セイレムが登場する。
父王のシャヌーンへの執着や、妹姫の気持ちを、それとなく語る。
知恵に優れてはいても、他国に暮らすために剣術は身につけていない、
シャヌーンを、わざとからかい退出に追い込む。
国王に断りを入れて、シャヌーン退場。
セイレムと国王の会話。
自分達の国のこと。エジブトの脅威。
シャヌーンとアリーシャの婚姻を考えていた、二人にとって、今回のエジプトとアラザの戦争は、あまりに望まないものだった。


第三場 王宮の庭園


アリーシャが、一人たたずんでいる。彼女のソロ。
兄妹の様に育ったとはいえ、シャヌーンを慕う彼女にとって、近い内に、彼が国へ戻っていくだろう事実を、止めることは出来なかった。
幼さが残りながらも、切ないナンバーに。
そこへ、国王の所から戻ったシャヌーンが登場する。
戸惑うアリーシャ。
言うべき事がある様子なのに、それを言おうとしない、国王への不満を、思わずアリーシャへぶつけるシャヌーン。
苛立つ彼に対して、言葉を返せないアリーシャ。
そこへ、密偵風の男が静かに登場する。
シャヌーンの身分を問う男。それに答えるが、無礼な男にますます苛立つ、シャヌーン。
確かに本人と、確信した男は、無礼を詫び、跪き礼を取って。
自分はアラザからの知らせを持ってきたことを、語り出す。
突然エジプトの侵攻が始まったこと、援軍を送ってもらったが、矢張りかなわなかった事、今や国が倒れるのは、目前だということを、話して聞かせる。
王子として、王位を継ぐ者として、自分と共に戻って欲しいと告げる。
予想もしていなかった、自分の国の事態に驚くシャヌーン。
アリーシャは、すべて聞き知っていたので、どうすることも出来ずに見守っていた。
少しでも早く、自分と共に国元に立って欲しいと告げて、男は退場する。
入れ替わるように、セイレムが、登場している。
シャヌーンは、彼に掴みかかる。何故話してくれなかった。自分の国も、自分で守れないのかと、嘆くシャヌーン。
今、国へ戻ってどうなる。戻れば命の保証はないのだと、説得しようとする、セイレム。
対立していく二人を、アリーシャは見つめていた。
そのまま、三人の想いを、三重奏の形に持っていく。
それぞれの想いを残しながら、暗転。


第四場 王宮の回廊


国王が、侍従を数名連れて登場する。
先程の男が、何処からともなく登場して、国王を呼び止める。
二人だけになる。
アラザからシャヌーンを連れに来たこと。力を尽くしてくれたことを、形の上で感謝していると語るが、何処か言葉に刺がある。
今夜にでも、シャヌーンと共に、国に戻ることを告げると、退場してしまう。
優位に立つ同盟国として、守りきれなかったことは、充分に国王の心を苦しめていた。
和平の証として、ではあっても人質という立場に置いたのは自分であり、
それでも、我が子とほぼ同様に育ててきたつもりの、シャヌーンを、このような形で、手放すことを嘆いていた。





第五場 王宮の庭園


セイレムが一人たたずんでいる。
シャヌーンが登場する。
国へ戻るのかとセイレムが問いかける。このまま立つと告げるシャヌーン。
今戻っても、どうすることも出来ないと、無駄と知りつつ引き止めようとする、セイレム。
自分の国を守りたいこと。力はないかもしれない、しかし自分を、国が人々が必要としてくれるのなら、行くと告げる。
その間に男が影のように現れる。
迎えの男と共に立とうとする、シャヌーンに、セイレムは、自分の腰から短剣を外して手渡す。
シャヌーンが人目を避けて、剣の稽古をしていたことを知っていたこと、そして何よりも、アリーシャと自分のために、生きて戻れと送り出す。
剣を受け取り、言葉では何も答えず、静かに見つめるシャヌーン。
そのまま銀橋へ。旅立ちの決意を歌うソロ。
その間に、アリーシャが登場して、セイレムと共に見送る。
再び生きて会えることなど無いであろう事は、二人とも分かっていた。
銀橋ソロが終わって、シャヌーン退場。






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